2005年5月21日
フィギュアスケート実況&解説者総覧(7)
ただいま関西に出張中です。本来なら朝青龍の優勝と千代大海のへたれっぷりについて怪気炎を上げるべきところですが、あいにくそうもいかないので。
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このシリーズも7回目。今日から解説者編に突入です!
フィギュアスケート実況&解説者総覧
第7回 五十嵐文男さん
1980年レイクプラシッドオリンピック代表
日本フィギュアスケート解説の第一人者。いろいろな人に聞いても五十嵐さんの解説の評判はすこぶるいい。
まずその落ち着いた声質。実況と違い解説はフィギュアスケートの場合はジャンプを跳んだあとすぐに入れなければならない。しかしそのダンディズムあふれるお声は、観客の歓声の上にさりげなく「トリプル・ルッツ!」と入っても、演技のバランスを崩すどころかむしろ引き立てる。おすしのわさびのような感じだろうか。魚のうまみがよくわかるってやつである。
しかし最大の魅力はその解説テクニックである。その真髄は一言で言えば、「テクニカルな解説とわかりやすい解説の真ん中をうまくできる」ということができよう。フィギュアスケートを見る人は大きく「初心者」「中級者」「上級者」の3つにわけられる。「初心者」はフィギュアスケートのテクニック的なことはほとんど知識がない人で、最近は女子シングルで美女がいっぱい出るから見るとか、トリノが近づいてきたから見るとか、男子シングルではホンダバンが悲壮感あふれる演技というか転倒をするらしいから見るとか、そういう感じである。最後のはむしろ上級といえるか。
対して「上級者」というのはもうほとんど審判のような目で演技を見る人。とりあえずスケートのエッジを変えたのがわかる。そしてすべてのエレメンツでレベルがいくつかを判断できる。全体の演技点を計算しながら演技を見る。そういう人である。そして「中級者」は前述2つの中間に位置する。とりあえずフィギュアスケートには4種目あるとか、ジャンプは6種類あるとか、ペアでは人を投げあげたりしていいんだとか、恩田の納得できない演技の時に腰に手をやって首を振るものまねができるとか、そういう感じである。最後のは別にどうでもいい。
先述の意味はつまり、五十嵐さんはこの3種類の見る人のいずれも満足させる解説ができるということである。今シーズンのGPシリーズの中で例を見てみよう。カナダ大会でのガリト・チャイト&セルゲイ・サフノフスキー組について、「雰囲気を表情で変えていくだけじゃなくて、ステップを使った雰囲気の変え方というのがこの二人はうまいんですね、メリハリがきいてます」「非常に音を大切に使ってますね。上半身の音を使う場面と、下半身のステップで使う場面と。そのあたりの構成もよかったと思います」。これなどは初心者にはメリハリや音を使うというベーシックな用語を使いながら、中級者には構成の良さというトピックも提供して、満足度を高めている。また別の例でタニス・ベルビン&ベンジャミン・アゴスト組のところでは、「二人で一緒にステップを踏むところを意識的にあまり作ってないんですね。男性がステップを踏む、その次に女性が踏むという形で、ミスが目立ちにくい作りになってますね」など。上級者の気にする、いかに点を上げるかというポイントをさりげなく説明するとともに、全体的には難しくない感じで、普通の人にもわかる解説になっている。それを演技の中、リプレイの中のわずかな時間で完成させるところが能力の高さである。
そしてたんに全体を納得させるだけにとどまらず、初心者には興味を持たせ、中級者には一層のレベルアップにつながるような解説をしている点も評価される。ナフカ・カストマロフ組の中で「ポジションを2,3回入れ替えただけでここまでのスピードが出るんですね。非常に滑りがいいです」というのでは、前半で通を納得させ、後半で「なるほど滑りがいいのか」と初心者も感心させる。同じ例では「この二人のすごいところは技と技の間に隙間がないということですね。リフトを降ろして次のワンステップにはいるところで、普通ですとバランスをとりなおしたりすることがあるんですけど、それがほとんどないですね。非常につなぎがいいです」という感じ。最初と最後で初心者を納得させ、フィギュアスケートの面白さを伝えながら、同時に僕のようにもっと詳しくなりたいという人を、より深いレベルへ誘うような的確な解説もしてくれるのである。なめらかにポジショニングを変えながら乱れ放たれる言説は、ポーズの意味はよくわからんがとにかくエキサイティングだというプルシェンコの不思議なスピンのように、われわれを魅了するのである。
さらに五十嵐さんの解説の真骨頂は、長年の盟友森中直樹アナウンサーとのコンビで最大限に発揮される。そのコンビネーションは白熱したテニスのラリーのようにすばらしい流れを見せる。お互いがお互いを中継の中で高めあうミックス・アップが起こっている。演技中は演技を大事にしながら言葉をコントロールし、終わったあとでリプレイ、得点表示のあたりでたたみかけるように詳しい実況と解説の応酬。得点が出るまでその感動のラリーはとどまるところを知らない。得点が出たあとで少し物足りなさそうな五十嵐さんの雰囲気が伝わってくるあたりは、まさに解説の満漢全席。みんなおなかいっぱいである。
そして忘れてはならない、見逃してはならない隠れた魅力は、五十嵐さんは本当にいい滑りを見た時は「静かにエキサイトする」ということである。みんなうれしそうにはするのだが、言葉のトーンで「ああ五十嵐さんも喜んではるわあ」と思えるような、静かな興奮。プルシェンコの演技のあとでは「30cmのエッジすべてを使って滑ってますね!」という感じ。決してやかましくない、スケートって楽しいと思わせるような、純粋な喜び。これがわれわれをひきつけてやまない部分なのである。ドント・ミス・イット。
よく見るのかフィギュアスケートの中で使われる映画についてもたまに言及する。ロシアのオクサナ・ドムニナ&マキシム・シャバリン組が『フィフス・エレメント』STで演技していた時、「あの映画の衣装はジャン・ポール・ゴルティエが作っていてそれをよく研究している」とか、ナフカ・カストマロフ組のエキシの十八番『オースティン・パワーズ』STでは「あの映画の動きをよく研究している」という感じ。懐が深い。ちなみに著書は『五十嵐文男の華麗なるフィギュアスケート』(新書館)。華麗なのは五十嵐さんの解説ですよ!これからもそのダンディズムあふれるお声で、日本のフィギュアスケート界を支えてほしいものである。
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コメント
五十嵐さんの解説 ご多分に漏れず 昔っから大好きなんです
ファンレベルが 一時期 中級?(ジャンプの見分けがつく)程度だったときにも
ここ何年か余裕がなく見れなくて すーっかり忘れて見分けがつかなくなってしまってても
ツボにはまります
音楽も味わいたいと思ってるので 聞こえない位にしゃべられるとがっかりします
しかも「あ!転んじゃいましたねー」とか 見てりゃわかることを
わざわざ音楽を遮らんばかりに言わんでよろしいってな人もいますが
五十嵐さんだったら おそらく何故転んでしまったかを 簡潔に教えてくれるでしょうね
演技中には音楽を邪魔しないように 控え目に話して下さるところが 何よりの魅力です
投稿者 Маша : 2005年5月22日 05:58
マーシャさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
> 五十嵐さんの解説 ご多分に漏れず 昔っから大好きなんです
まさに今回の文章を支持してくださるような(勝手)ご意見ありがとうございます。
演技を引き立てることに徹する姿勢は、工場見学を楽しませてくれる案内の人を思い出させます。いろいろなレベルに合わせた説明をしてくれるところは、さすが第一人者ですよね。
投稿者 マイク松 : 2005年5月23日 00:30
はじめまして、こんばんは。
野球とフィギュアスケートファンです。
五十嵐さんの解説はほんっとにすばらしいですね!
視聴者のツボを心得ていらっしゃる。
実況の方はもう終わってしまっていますが、NHK杯でマリア・ブッティルスカヤ選手の演技が始まる直前、
「それではおみ足を堪能させていただきましょう」
というような実況をされた方がいたと思うのですが、どなただったのでしょうか?
スケートを見始めたころだったので余計に印象に残っています。
今回の世界選手権の実況がひどかったなあ、と思っていたところだったので、こちらの企画楽しませていただきました。
またおじゃましますので、よろしくお願いします。
投稿者 Rekoe : 2005年5月25日 19:53
Rekoeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。世界選手権は僕も激ギレしている記事があるので、探してみてください。きっと憂さが晴れると思います。
> NHK杯でマリア・ブッティルスカヤ選手の演技が始まる直前、
> 「それではおみ足を堪能させていただきましょう」
ブッテルスカヤですか。なつかしいですねー。
なかなか気の利いた実況ですが、今のメンバーではないかもしれませんね。なんか1つ前の時代の和やかさみたいなのが匂い立ってきます。
もう少しこの企画は続きますので、これからもよろしくお願いいたします!
投稿者 マイク松 : 2005年5月25日 23:15
松さん、こんばんは。
真打ち登場!ってとこでしょうか?
この連載のお陰で、順調に知識が増えております。ありがとうございます。肝心の実況に触れる機会が、目下のところ全然ないのが残念です!
投稿者 tomo : 2005年5月31日 21:36
tomoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
> 順調に知識が
そういっていただけるととてもうれしいです。
確かにオフ長いですよね。僕もとりあえずはとりだめたDVDでがまんしています。
これだけオフシーズンが長いと感じたのは初めてです。早く冬きませんかね。(早いって)
投稿者 マイク松 : 2005年6月1日 17:02
五十嵐さんの落ち着いた語り口がいいですね。
ルールをほとんど知らなかったアイスダンスも、五十嵐さんのおかげで楽しめるようになりました。
投稿者 fsjournal : 2005年6月4日 09:21
fsjournalさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
> アイスダンスも、五十嵐さんのおかげで
これ僕もそうでした!楽しみ方を教えてくれるのも五十嵐さんのいいところですよね。感謝です。
投稿者 マイク松 : 2005年6月5日 11:31